目的
AIを用いた樹木の種別判定の実験を行います。
写真(カメラ)に写った樹木の種別の判定をAIができるようになることで、以下に挙げるようなニーズ/課題に対する業務効率化を図ることを目的とした実験となります。
なお、当実験の前提として、樹木の種別の判定は葉から判定するものとします。
課題/ニーズ
樹木の種類の判定のニーズ/課題に関する事例として以下のようなものが考えられます。
樹木のメンテナンス作業
造園や庭園、街路の木が傷んだり病気にかかってしまった時、樹木医に相談します。
樹木医が治療をするためには樹木の種類をまずは把握しておく必要があります。
しかし、施設等の管理者では樹木の種類が分からないこともあり、場合によっては、一度事前の調査として、造園工事や植栽管理を行った企業のスタッフもしくは樹木医が、現地に訪問する必要があります。
もし知識の無い施設管理者であったとしても、例えば手元にあるスマートフォンを通して対象の樹木を撮影するだけで樹木の種別が判定及び工事・管理を行った企業に判定データを送付できるようになった場合、上記の事前調査を省力化することが可能です。
送電線下の植生管理
現在は、送電線下の巡視をして周辺の植生状況を把握する必要があります。
しかし、地上からでは全体的な植生状況の正しい把握は難しく、また地上から正しく調査するためには、広大な山中を歩く労力が必要となります
そこで、ドローンに取り付けたカメラにて樹木の種別や植生状況を把握することができれば、上記業務を効率化することができます。
また、植生管理に必要な地形のデータはLiDARセンサーの利用で取得が可能です。
解決手段及び実験・検証
なお、今回の検証は以下2つの観点での検証を行いました。
1つ目の観点
葉の特徴が大きく異なる以下2つの種類の樹木判定をAIが判別することができるか。
1)針葉樹:クロマツ
2)落葉樹:イロハモミジ
また1つ目の観点の検証では、2つの異なるAIライブラリとして「AutoML」「TensorFlow」の各々を用いた検証結果の比較も行いました。
2つ目の観点
葉の特徴が近い以下2つの種類の樹木判定をAIが判別することができるか。
1)針葉樹:クロマツ
2)針葉樹:ヒノキ
※2つ目の観点の検証では「TensorFlow」のみでの検証となります。
1点目の検証:特徴が大きく異なる2つの樹木の種類の判別
TensorFlow
開発環境
os:Windows10
python:3.6.8
tensorflow:2.1.0
学習データ
様々な角度から撮影したクロマツとイロハモミジの画像をそれぞれ用意しました。
クロマツ
学習枚数:131枚
イロハモミジ
学習枚数:131枚
テスト結果
判定結果の表示形式について
クロマツの写真でのテスト結果
イロハモミジの写真でのテスト結果
10枚の写真でテストした結果、全て高い数値で判定が出来ました。
Google Cloud Platform
バージョン
AutoML Vision v1
学習データ
クロマツ
学習枚数:50件
イロハモミジ
学習枚数:47件
テスト結果
AutoMLでも同様に1~0の判定数値が表示されます。
クロマツの写真でのテスト結果
イロハモミジの写真でのテスト結果
AutoMLでも同様に10枚の写真でテストしてみた結果、全て高い数値での判定が出来ました。
2点目の検証:特徴が近い2つの樹木の種類の判別
続いて、葉の特徴が近い以下2つの種類の樹木判定を行いました。
1)針葉樹:クロマツ
2)針葉樹:ヒノキ
TensorFlow
学習データ
クロマツ
学習枚数:131枚
※イロハモミジとの判定と同じデータを使用しました。
ヒノキ
学習枚数:131枚
テスト結果
クロマツの写真でのテスト結果
ヒノキの写真でのテスト結果
今回も同様に10枚の写真でテストした結果、全て高い数値ではありませんが正しく判定出来ています。
課題と対策案
季節による葉の状態の変化への対応
今回は葉の形状を特徴量として樹木の種類を判定しました。
ですが葉の状態は季節によって変化していきます。
秋になると葉の色が赤い色や黄色に変化していきますので今回の作成したモデルでは上手く判定が出来なくなります。秋の季節にこの技術を利用するためには紅葉の時期に合わせた学習データでモデルを作成する必要があります。
落葉樹は秋から冬にかけて完全に葉を落としてしまいますので秋冬に葉から判定は難しいといえます。
よって、冬にこの技術を利用するためには樹形の学習が効果的かと思います。
樹木とカメラの距離
今回は上記に記載の距離(倍率)で葉が写った場合の実験結果となります。
この場合に関しては高い精度を出すことができましたが、より遠い距離(低い倍率)となった場合、今回のAIでは正しく判断することが難しいと考えられます。
遠い距離から樹木の判定をしたい場合にはその距離に合わせて撮影した写真を学習させたAIモデルを構築することで判定できる可能性があります。
もう一点としては葉の形状まで撮影できる高倍率のカメラを用いることでも対応できると考えられます。
まとめ
今回はクロマツ、イロハモミジの葉から樹木の種別の判定を行った結果それぞれの葉の特徴から高い数値での判定が可能でした。
ただし、クロマツとイロハモミジは葉の特徴に大きく違いがあります。
今回は行いませんでしたが、画像処理を用いて葉の特徴をより分かりやすく学習することにより細かな樹木の種類を判定する可能性が期待出来ます。
今回は弊社にて開発した事例のごく一部を紹介いたしました。弊社はシステム開発を会社として、パッケージソフトの販売ではなくお客様のニーズに合わせた”受託開発”を専門としています。本記事に記載された技術に関するご質問や、利活用のご相談などがございましたらお気軽にお問い合わせください。